Thinking about something

数学の哲学とか真理論の勉強ブログ

読書記録:Pincock 2004 “A Revealing Flaw in Colyvan’s Indispensability Argument”

最近は不可欠性論法について少しずつ勉強しており、その過程で読んだ論文について記録しておきます。

 

Christopher Pincock “A Revealing Flaw in Colyvan’s Indispensability Argument” Philosophy of Science 71 pp. 61-79

Colyvan(2001)に対する批判的な論文。

 

Colyvanは自身の提示する不可欠性論法において問題にしているのは形而上学的な(言語や思考から独立な)実在論であるが、実際には意味論的な、もしくは数学的言明の真理値における実在論しか語っていない、というのが第一の批判点。というのも、Colyvanの不可欠性論法は形而上学的に反実在論的な数学解釈とも整合的だからである。

Colyvan(2001:142)において不可欠性論法が問題にする数学的対象にHellmanやPutnumの様相的な構造や、Lewisのメレオロジー的解釈も含めているが、こうしたものは数学的対象にコミットしているとは思えない。それはPutnum(1971)において抽象的対象には複数の同値な構成がありうると論じられていること、そしてそれが意味論的な実在論を導くことからも明らかだろう。

 そのため、Colyvanの前提2、「数学的対象は科学にとって不可欠である」は論点先取ではないかという疑惑が生じ、それに対してPincockはこの前提を「数学的対象への見掛け上(apparent)の言及は科学に不可欠である」(Pincock2004:68)と改訂することを提案する。しかしこのような改訂を経た場合、不可欠性論法の妥当性は大幅に低下することはいうまでもない。

 

 次に、Pincockは数学が科学内で用いられる仕方についての「マッピング的説明」に議論を移行する。マッピング的説明によると、「応用された数学的言明の真理は、物理的な状況から数学的領域へのある種のマッピングに依存する」(Pincock2004:69)。この説明をもとにBaker(2003)はPutnumと同様に数学的対象の構成の仕方の非決定性から不可欠性論法に異議を唱えている。

 Pincockはここから進んでマッピングの存在は関連する数学的領域における数学的関係のみに依存し、こうした関係的性質については実在論からも多くの反実在論からも説明できると論じる。この論文の第五節以降では上記のHellman、Lewisらの理論からもこうした説明が可能であることを具体的に示している。

 また、マッピング的説明が正しいのならば、数学の応用という観点からは数学における普遍論争を解決できない。というのも、この論争で問題になっているのは非関係的な、数学的対象に特有の性質だからである。

 

 最後にPincockは自らの議論への可能な反論を四つ挙げているが、そのうち真摯に取り組んでいるのがマッピング的説明は正しいのか、そしてこの説明に登場する関数は集合論的に規定されうるのではないか、という問題である。前者についてはマッピング的説明の代案は不可欠性論法の擁護者から提出されるべきである、と結論され、一方で後者は今後の課題であるとしている。

 

正直なところ論文全体で登場するHellmanのmodal structuralismが本当に数学的対象にコミットしていないのか、それが唯名論的説明とどう異なるのかを全く理解していないのでなんとも言えない。そしてこの点に議論全体の妥当性がかかっているので実際にHellmanさんの本を読んでみる必要性をひしひしと感じた。卒論ではこの論文と反対方向、不可欠性論法と神話的な構造主義について語ろうと思っているので喫緊の課題だと思う。

 

個人的な感想としては、ちょこちょこColyvanの議論について藁人形論法をしていて読んでいて面白くはなかった。特に前提2の改訂を提案して以降の下りは余計だと感じる。また、マッピング的説明を前提に置いて批判をしているが、(Perssini1997などを念頭に置けば)この説明のもっともらしさは筆者が考えるほどではないと思うので、結論部分で擁護者が代案を出しなさいよ、というのは雑な議論だとも思った。ただ、不可欠性論法においてしばしば数学が科学に「使用」されるその仕方は曖昧であることが多く、そこにも問題があることには同意する。こうした問題が積み重なって、Bakerさんのexplanatory versionの不可欠性論法が登場するのかな、と思った。

 

あとは本当に個人的な感想だが、後半はテクニカルな議論が多すぎて数学の勉強が全く進んでいない自分にとっては読み進めるのが辛かった。

 

参考文献(順番ぐちゃぐちゃですが許してください)

Pincock, Christphor, (2004), “A Revealing Flaw in Colyvan’s Indispensability Argument” Philosophy of Science 71 pp. 61-79

Colyvan, Mark, (2001), The indispensability of Mathematics. Oxford: Oxford University Press

Perrsini, Anthony, (1997), “Troubles with Indispensability: Applying Pure Mathematics in Physical Theory” Philosophia Mathematica (3) Vol.5 (1997) pp.210-227

Putnum, Hilary, (1971) Philosophy of Logic, reprinted in his Mathematics, Matter and Method: Philosophical Papers vol.1, 2nd ed. Cambridge: Cambridge University Press(1997)